東京高等裁判所 昭和54年(ネ)102号 判決
控訴人
岩田礦工業株式会社
右代表者
岩田稠
右訴訟代理人
籾山幸一
被控訴人
小川町
右代表者町長
田口勘造
右訴訟代理人
大山英雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における新請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一当裁判所は控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは原判決の理由説示するところと同一であるから、これを引用する。当審で提出された新たな証拠も右認定・判断を左右するに足りない。
二〈省略〉
三控訴人の憲法二九条三項に基づく損失補償の請求について判断する。
憲法二九条三項の規定は、一定の公共の目的のために特定の権利者の権利を奪い又はこれに対して制約を加えるなどしてその者に特別の犠牲を強いる場合に、その犠牲を填補するためにこれに対して正当な補償をすべきことを定めたのであるから、公共の目的のための必要から財産権に一定の制約を加えるすべての場合に適用されるものではない。財産権といつても、その権利の内容はもともと公共の福祉と調和するように法律で定められ(憲法二九条二項)、権利自体のもつ性質及び機能にかんがみてこれを公共の福祉と調和させるべく施される法律上の制約は、いわば権利の内在的制約ともいうべきものであり、このような制約によつて権利者が被る不利益は、正当な補償を必要とする特別の犠牲には当らないと解するのが相当である。
鉱業法は、鉱業の実施により公共の営造物・建物が破壊することを事前に防止するため、六四条において「鉱業権者は学校等の公共用施設等の地表地下とも五〇メートル以内の場所において鉱物を掘採するには、他の法令の規定によつて許可又は認可を受けた場合を除き、管理庁又は管理人の承諾を得なければならない。」と定めており、右制限は、公共用施設等の設置が鉱業権設定の前後いずれの場合であるとを問わないものであると解する。
以上によれば、鉱業権は、その性質及び機能にかんがみ、公共の福祉と調和するようもともと権利の内在的制約として右六四条による制限が予定されているものであるから、同条の制限によつて鉱業権者が被るべき不利益は、正当な補償を必要とする特別の犠牲には当たらないというべきである。
よつて、控訴人の本請求も理由がない。
四以上の次第で、本件控訴は理由がなく、当審における新請求も理由がないからいずれも棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(田中永司 宮崎啓一 岩井康倶)